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和歌山地方裁判所 昭和51年(ワ)155号 判決 1978年6月27日

原告

塩路昌三

被告

中野涼三

主文

一  被告は、原告に対し、金九〇四、四六六円及び内金七五四、四六六円に対する昭和四八年三月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金四、八五〇、九七一円及び内金四、四五〇、九七一円に対する昭和四八年三月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の概要

(一) 発生日時 昭和四八年三月二一日午前一一時四〇分ころ

(二) 発生場所 和歌山県有田市古江見七番地の七先国道四二号線上

(三) 加害車 自家用小型乗用自動車(和五五そ七五九四)

(四) 右運転者 被告

(五) 被害者 原告

(六) 態様

被告は、前記日時ころ、同場所付近路上において、加害車を運転し西進中、交通渋滞のため一時停止していた原告運転の自家用小型乗用自動車に加害車を追突させた。

2  原告の傷病及び治療経過

(一) 原告は、右事故により頸部捻挫、左足打撲の傷害を受けた。

(二) 治療経過 昭和四八年三月二二日から同四九年四月一三日まで通院約一三か月、内治療実日数四二日

3  責任原因

(一) 被告は、自己所有の車の助手席に妻を同乗させて家族目的で走行中本件事故を惹起した(自賠法第三条)。

(二) 被告は、自動車運転中、常に前方を注視して運転をすべきであるのに、交通渋滞の中を走行中前方不注視の状態で運転した過失により本件事故を惹起した(民法第七〇九条)。

4  損害 金五、四〇九、九三一円

(一) 治療費 金一五一、九三一円

(1) 岡整形外科病院 金一〇〇、〇六二円

(2) 労災病院 金二一、六二九円

(3) 通院交通費 金三〇、二四〇円

原告は、通院のため、御坊市藤田町の自宅から岡整形外科病院までタクシーを利用し、右タクシーの往復三四日の内の同料金三〇日分金一二、〇〇〇円と自宅から労災病院までの往復交通費六日分金一八、二四〇円の合計金三〇、二四〇円の損害を被つた。

(二) 休業損害 金三、八五八、〇〇〇円

(1) 代りの使用人雇入れ代 金一、〇七五、五〇〇円

原告は、酪農業、柑橘類農業、水田耕作農業、雑穀畑作農業を営んでいるが、本件事故のため、酪農業については家族による代替のきかない分について使用人を一日当り三、五〇〇円の日当で雇入れ、延べ三〇七・二八五人を要したので金一、〇七五、五〇〇円の損害を被つた。

(2) 農協による夏柑採集費 金一一四、五一三円

原告は、家族が酪農に従事しているために、夏柑の採集を農協に依頼せざるを得ず、その費用金一一四、五一三円の損害を被つた。

(3) 接待ビール代 金八、四〇〇円

原告は、前記(1)記載の代りの使用人を接待するためのビール代として金八、四〇〇円を支出し、同額の損害を被つた。

(4) 弁当代 金二五九、二〇〇円

原告は、前記(1)記載の代りの使用人の弁当代として金二五九、二〇〇円を支出し、同額の損害を被つた。

(5) 代りの使用人をさがすための費用等 金四二、三八七円

原告は、前記(1)記載の代りの使用人を紹介してもらつた費用等金四二、三八七円を支出し、同額の損害を被つた。

(6) 乳牛一〇頭をたたき売りしたことによる損害 金一、三五八、〇〇〇円

原告は、本件事故当時、乳牛を四五頭飼育していたが、本件事故により負傷したため、飼育していた乳牛を売却しなければ資金繰りがつかず、また乳牛の管理も不十分な状態に陥つたので、右事故当時の相場より三割安で乳牛一〇頭を売却したことにより、金一、三五八、〇〇〇円の損害を被つた。

(7) 乳牛二頭を死亡させたことによる損害金一、〇〇〇、〇〇〇円

原告は本件事故により負傷したため、乳牛の世話が不十分となつたので乳牛二頭が急性鼓張症となり、死亡したので金一、〇〇〇、〇〇〇円の損害を被つた。

(三) 慰藉料 金一、〇〇〇、〇〇〇円

原告は、本件事故のため、医者から入院をすすめられる程の傷害を受けたが、酪農業の経営のため、やむなく苦痛を我慢して通院により治療したものであり、その苦痛は極めて大きなものであつた。そこで本件事故による原告の右のような苦痛を慰藉するため金一、〇〇〇、〇〇〇円の慰藉料が相当である。

(四) 弁護士費用 金四〇〇、〇〇〇円

着手金、報酬合わせて金四〇〇、〇〇〇円が相当である。

5  損益相殺 金五五八、九六〇円

原告は、右損害のうち、被告及び自賠責保険により損害賠償内入金として金五五八、九六〇円の支払を受けた。

6  結論

よつて、原告は、被告に対し、前記損害金五、四〇九、九三一円から右内入金五五八、九六〇円を控除した金四、八五〇、九七一円及びこれから弁護士費用を控除した金四、四五〇、九七一円に対する本件事故発生の日の昭和四八年三月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払うことを求める。

二  請求の原因に対する答弁

1  請求の原因第1項は認める。

2  同第2項のうち、昭和四八年三月二二日から同年八月二三日までの通院治療は認めるが、その余は不知。

3  同第3項は認める。

4  同第4項のうち、(一)の(1)は、金九六、三〇〇円の限度で認めるが、その余は否認する。同(一)の(2)は、金一七、一二四円の限度で認めるが、その余は否認する。同(一)の(3)は、原告が昭和四八年四月一四日労災病院へ通院するため片道タクシーを利用しその料金五六〇円を要した限度で認めるが、その余は否認する。同項(二)ないし(四)の事実は否認する。

5  同第5項は認める。

三  抗弁

被告は、原告に対し、治療費として次のように金一一四、〇四四円を支払つた。

1  岡整形外科病院治療費 金九六、三六〇円

被告は、岡整形外科病院に対し、原告の治療費として金九六、三六〇円を支払つた。

2  労災病院治療費 金一七、一二四円

被告は、原告に対し、昭和四八年四月五日及び同年同月一四日の原告の労災病院治療費合計金一七、一二四円を支払つた。

3  通院交通費

被告は、原告に対し、原告が昭和四八年四月一四日、労災病院へ通院するために利用したタクシー料金五六〇円を支払つた。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求の原因第1項の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告の傷病及び治療経過

請求の原因第2項のうち、原告が、昭和四八年三月二二日から同年八月二三日まで通院し治療を受けた事実については当事者間に争いはなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七、第八、第四〇、第四一号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告が、本件事故により頸部捻挫、左足打撲の傷害を受け、昭和四八年八月二四日から同四九年四月一三日まで通院し治療を受けたこと、右全通院中治療実日数は四三日であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

三  責任原因

請求原因第3項の事実は、当事者間に争いがない。

四  損害

1  治療費

(一)  岡整形外科病院分 金一〇〇、〇六二円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九、第一〇号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、岡整形外科病院における原告の治療費は金一〇〇、〇六二円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  労災病院分 金二一、六二九円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四二、第四三号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、労災病院における原告の治療費は金二一、六二九円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  通院交通費 金二四、六〇〇円

原告が、昭和四八年四月一四日労災病院へ通院するために片道利用したタクシー料金として金五六〇円を要した点は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第七、第八、第四〇、第四一号証によれば、原告は、岡整形外科病院に治療のため少なくとも三四日通院し、労災病院に治療のため六日通院したことが認められ、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、岡整形外科病院へ自宅からタクシーを利用して通院したが、それに要する一回の往復料金は四〇〇円であつたこと、原告は労災病院へ通院するために御坊市から和歌山市まで国鉄を利用したこと、御坊、和歌山駅間の国鉄料金は片道四九〇円であること、和歌山駅から労災病院までタクシーを利用したこと、が認められる。右認定の事実関係によつて、原告の本件事故による通院交通費を計算すると、原告が岡整形外科病院へ通院するのに少なくとも一二、〇〇〇円の交通費を労災病院へ通院するのに一二、六〇〇円の交通費を必要としたものというべきである。原告の主張するその余の通院交通費については、これに符合する原告本人の供述は直ちにこれを採用することはできないし、ほかには右主張事実を認めるに足りる証拠がない。

2  休業損害

(一)  代りの使用人雇入れ代、接待ビール代、弁当代、代りの使用人をさがすための費用等

原告は、酪農業については家族による代替のきかない分について、使用人を一日一人あたり三、五〇〇円の日当で雇入れたと主張し、原告本人はこれに符合する供述をしているけれども、証人花田敏男の証言によれば、右花田が被告の代理人として原告方を数度に渡り訪問したにもかかわらず代りの使用人らしき者を一度も見かけなかつたこと、原告は、本件事故後も仕事に従事し、右花田に対しては身体の頑健なことを自慢していたこと、最初の示談交渉のあつた昭和四八年七月二三日より後になつて始めて原告から代りの使用人を雇入れた旨の話があつたこと、が認められ、これらの事実に照らすと、右原告本人の供述はにわかに採用できない。甲第一一ないし第三〇号証、第三二号証はいずれも原告において作成人の住所を明らかにすることができないばかりか、右認定の事実に照らしにわかに採用できない。他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、代りの使用人雇入れの事実を前提とする接待ビール代、弁当代、代りの使用人をさがすための費用等については、これを認めるに足りない。

(二)  農協による夏柑採集費 金一一四、五一三円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三一号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、酪農業を主たる業務とし、従として柑橘類農業を営んでいること、本件事故による負傷及び通院治療のため、右酪農業専従を余儀なくされたので、原告の採培する夏柑の採集に支障のあつたこと、原告は、右夏柑採集を御坊市農業協同組合藤田支所に依頼し、昭和四八年五月八日から同年同月一六日までの右採集費用として右組合に対し金一一四、五一三円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば、原告が、農協に対して支払つた金一一四、五一三円は本件事故と相当因果関係に立つ損害というべきである。

(三)  乳牛一〇頭をたたき売りしたことによる損害 金六六六、六六六円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四六ないし第四八号証の各一ないし四及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、四五頭の乳牛を飼育していたが、本件事故後、右乳牛を十分管理することができなくなり原告所有の乳牛一二頭を精肉業者及び家畜商に売却し、乳用牛を肉用牛として売却したため相場との差額合計一、六〇〇、〇〇〇円(一頭平均一三三、三三三円)を生じたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば、原告は、乳牛一〇頭を処分したことにより相場との差の合計一、三三三、三三三円を損失したようにも考えられるが、原告は、右売却の理由として資金繰りをも掲げていることを考えると、そのうち二分の一に当る六六六、六六六円をもつて本件事故と相当因果関係に立つ損害というべきである。

(四)  乳牛二頭を死亡させたことによる損害

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二、第四四、第四五号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件事故後である昭和四八年五月一日及び同四九年八月二三日、原告所有の乳牛二頭が死亡もしくは廃用となつたことが認められるけれども、さらに進んで右乳牛の死廃が、本件事故による原告の負傷及び通院治療のために、乳牛の管理が不十分となつた結果、死亡もしくは廃用となつたとの点については、原告本人は、これに符合するかのような供述をしているが、にわかに採用することができず、他に右の点を認めるに足りる証拠がないから、原告の右主張は採用できない。

3  慰藉料 金五〇〇、〇〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第七、第八、第四〇、第四一号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により頸部捻挫、左足打撲の負傷を負つたこと、その治療のため長期の通院治療を余儀なくされたこと、その他本件記録上に現われた一切の事情をしんしやくすると、原告の精神的苦痛に対する慰藉料としては金五〇〇、〇〇〇円が相当である。

4  弁護士費用 金一五〇、〇〇〇円

以上のとおり、原告は、被告に対し本件事故に基づく損害賠償請求権を有するところ、本件訴訟の難易、審理の経過、損害認容額に鑑み、金一五〇、〇〇〇円が本件事故と相当因果関係に立つ損害と認められる。

五  内入金の支払 金五五八、九六〇円

請求の原因第5項については当事者間に争いがない。

六  治療費の支払(抗弁) 金一一四、〇四四円

1  岡整形外科分 金九六、三六〇円

成立に争いのない乙第二一号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、岡整形外科病院に対し、原告の同外科病院における治療費として金九六、三六〇円を支払つたことが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

2  労災病院分 金一七、一二四円

成立に争いのない乙第四、第六、第七号証、証人花田敏男の証言及び被告本人尋問の結果を総合すれば、被告は、原告に対し昭和四八年四月五日及び同年同月一四日、原告の労災病院における治療費合計一七、一二四円を支払つたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

3  通院交通費

成立に争いのない乙第八号証及び証人花田敏男の証言によれば、被告は、原告に対し、原告が昭和四八年四月一四日労災病院へ通院するために利用したタクシー料金五六〇円を支払つたことが認められる。

七  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求のうち、被告に対し、前記損害金一、五七七、四七〇円から右内入金五五八、九六〇円及び被告の治療費支払代等金一一四、〇四四円を控除した金九〇四、四六六円及び弁護士費用金一五〇、〇〇〇円を除く内金七五四、四六六円に対する本件事故発生日である昭和四八年三月二一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九二条本文を、仮執行の宣言について、同法第一九六条第一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川波利明)

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